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横浜地方裁判所 昭和50年(ワ)1240号 判決

主文

一  原告らの主位的請求を棄却し、予備的請求の訴を却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1 被告会社が昭和五〇年五月三日に行つた第三回定時株主総会における第三期営業報告書、貸借対照表及び損益計算書承認の決議は無効であることを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

(予備的請求)

1 被告会社が昭和五〇年五月三〇日に行つた第三回定時株主総会における第三期営業報告書貸借対照表及び損益計算書承認の決議はこれを取消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一)原告らの訴を却下する。

(二)訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案に対する答弁

(一)原告らの請求を棄却する。

(二)訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  主位的請求の原因

1  原告中川は、被告会社の株式二六八株を保有する株主にして、昭和四七年五月一八日被告を設立以来、昭和五〇年五月三〇日の定時株主総会終結時まで被告会社監査役の地位にあつたものであり、原告小島は被告会社の株式六〇〇株を保有する株主である。

2  被告会社は、昭和五〇年五月三〇日、横浜市中区山下町一番地シルクホテルにて、同会社定時株主総会を開催し、左の決議を行つた。

決議事項

(1) 役員定数変更及び役員改選の件

(2) 受権資本の変更の件

(3) 第三期(自昭和四九年四月一日、至昭和五〇年三月三一日)営業報告書、貸借対照表及び損益計算書ならびに欠損金処分案承認の件

(4) 役員の報酬額の件

3  ところで定時株主総会において承認を得べき会社の計算書類は予め監査役の監査を受けることが必要であるが、被告会社が昭和五〇年五月三〇日の株主総会に提出した計算書類は監査役の監査を受けていない違法な書類であつた。

従つて、かかる法令に違反する計算書類を承認する旨の前記被告会社の株主総会における第三号議案承認決議は無効なものと言わざるを得ない。

4  よつて原告らは、第三回定時株主総会の第三号議案たる決議報告承認決議の無効確認を求める。

二  予備的請求の原因

1  主位的請求の原因1、2および3項前段の主張は、予備的請求の原告においても、そのまま援用する。

2  商法が、取締役に対し毎決算期に貸借対照表、損益計算書、営業報告書等のいわゆる計算書類の作成を命じていること、およびこれら計算書類については監査役の監査を受けることを命じていること、並びに定時株主総会に監査後の計算書類を提出して承認を求めるべく命じていること、に関しては論をまたないところである。

ところで前記株主総会で承認された各計算書類は、当時の監査役たる原告中川に対し監査を受けるべく提出されたことはなく、従つて監査役の監査を受けていない。

かかる瑕疵ある計算書類は本来株主総会における承認の対象とされるべきものではないにもかかわらず、これをそのまま承認した株主総会決議は、その意味において瑕疵ある承認決議と云わざるを得ない。

原告らは、右承認決議の瑕疵は決議内容そのものの瑕疵となる、と思料する。

しかし仮りに然らずとするも、右承認決議が法の要求する適正な手続を経てなされたものでないことは明らかで、手続的瑕疵がある。

3  されば右承認決議が仮りに無効でないとしても、取消されるべきものである。

三  本案前の主張

1  主位的請求について

法は株主総会決議の瑕疵を主張する方法として(不当決議取消の変更の訴を別として)決議無効確認の訴と決議取消の訴を定め、決議の内容が法令・定款に違反する場合を前者によらしめ、総会招集の手続、決議の方法が法令・定款に違反する場合を後者によらしめている。

原告らは、株主総会に提出された計算書類が監査役の監査を受けていないということで「違法な書類」と主張するが、書類自体が違法ということはありえず(その記載内容が法に違反しているなら格別)、従つてそれを承認した決議が無効確認の対象となるものではない。

よつて、決議無効確認を求める原告らの訴は実体審理に立ち入るまでもなく不適法なものであるから却下されるべきである。

2  予備的請求について

総合決議は昭和五〇年五月三日に行われたのにかかわらず、訴提起は三か月を経過した同年八月二〇日に行われている。したがつて商法二四八条の出訴期間経過後の訴提起であり、不適法であるから原告らの予備的請求の訴も却下さるべきである。

四  主位的請求の原因に対する答弁

1  請求の原因1、2は認める。

2  同第3のうち、被告会社が昭和五〇年五月三〇日の株主総会に提出した計算書類は、監査役の監査を受けていないとの事実は否認し、第三号議案承認決議が無効であるとの主張は争う。

五  本案前の被告の主張に対する原告の反論

1  被告は、本件計算書類につき、仮りに監査役の監査を受けていないものであつたとしても違法な書類と言うことはない、と主張するが、定時株主総会において承認を受くべき計算書類が予め監査役の監査を経ていなければならないことは商法上明白なことである。商法が、定時総会の招集通知に監査報告書の謄本の添付を要求していることからも明らかであろう(但し、被告会社の場合は、商法特例法により監査報告書謄本の添付は免除されているが、これは謄本の添付を要しないのであつて監査自体を要しないのではないこと言うまでもない。)。

然らば監査役の監査を経ていない計算書類は、総会において承認を受けるべき書類として要件を充たしていない書類であり、すなわち「違法な書類」である。従つてかかる不適法な書類は、総会における承認の対象となりえないものである。このような違法計算書類を承認する決議は、それ自体法令に違反していることにほかならない。よつて無効決議と言うべきである。

2  右により、本件はそもそも株主総会における決議の対象となしえない不適法な計算書類につき承認決議をなしたものであり、その決議は法令に違反し無効であると言うべきである。

理由

一  主位的請求について

原告らは、昭和五〇年五月三日開催の被告第三回株主総会(以下「本件総会」という)における第三期営業報告書、貸借対照表、損益計算書(以下一括して「本件計算書類」という)の承認決議は、本件総会の会日に先立ち、本件計算書類が監査役に提出され、その監査を経べきであるにかかわらず、右手続を経ていないから無効である旨主張するも、本件総会の会日以前に本件計算書類を監査役に提出しなかつた違法は、決議取消の訴の事由にとどまり、決議無効の事由とするには本件計算書類の内容において、虚偽、その他瑕疵の存在を要するものと解するのが相当である。しかるに、原告らは、本件計算書類の内容において、虚偽、その他瑕疵の存在はこれを主張しない旨釈明するので、本件主位的請求は理由なきに帰する。

二  予備的請求について

本件記録によれば、昭和五〇年八月二〇日原告は主位的請求の訴を提起し、昭和五二年五月二四日、予備的に決議取消の訴を追加変更したことが明かである。ところで株主総会の決議無効の訴は、決議の日より三月内に提起すべき出訴期間の制限の有するところ、本件総会の決議は昭和五〇年五月三日になされたものであり、主位的請求の訴が提起されたときに、決議取消の訴が提起されたとみなしても、前記出訴期間を徒過していることは明かであり、不適法な訴といわなければならない。

三  よつて主位的請求はこれを棄却し、決議取消の訴はこれを却下し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

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